この記事を書いた人:tkc
「ブレーキ交換は、命に関わるから怖い…」「工具も技術もないのに、自分でやって大丈夫?」
その不安、よく分かります。ブレーキはバイクの命綱。だからこそ、「失敗したらどうしよう」と二の足を踏む方がほとんどです。
でも安心してください。この記事は転ばぬ先の杖として、知識ゼロの初心者でも安全かつ確実に行えるよう、必要な工具の選び方からピストン清掃のコツまで徹底的に解説しています。この記事を読めばあなたはもうバイク屋任せにしません。
この記事で、ブレーキの仕組みを理解し、愛車の状態を自分で把握できるようになりましょう。
なぜ自分で交換するのか?(交換時期と費用対効果)
交換時期を見極めるサイン
ブレーキパッドの交換時期は走行距離や乗り方によって磨耗具合が異なりますが、走行距離を目安にする場合は5,000km~10,000kmを目安に点検し、パッドのライニング厚が3mm以下になったら交換を検討しましょう。1mm以下になった場合は、一刻も早く交換する必要があります。
・目視チェック:キャリパーの隙間からパッドの残量をチェックしましょう。

写真のパッドで約2mmでした。このように、パッドの残量が少ない場合は早めの交換を心がけましょう。
*複数キャリパーのチェックポイント:キャリパー(ブレーキパッドをローターに押し付ける部品)が2つあるバイクの場合、それぞれのパッドの減り具合が異なることが多いので、両方とも必ず確認してください。
DIYによる費用対効果(最大のメリット)
ブレーキパッド交換をショップに依頼すると、パッド代とは別に工賃として5000円〜10000円程度かかります。
自分で交換できれば、費用はパッド代のみで済み、大きなコスト削減になります。さらに重要なメリットは、自分でバイクの構造を理解し、次のトラブルを未然に防げるようになるという知識と経験を得られることです。
今回のDIYは、費用を節約しつつ、愛車への理解を深めるための最初の一歩です。
交換前に知るべきこと:失敗しないための必須知識
ブレーキパッド交換は、命に関わる作業です。交換を始める前に、必ず以下の2点を理解しておきましょう。
車種別のパッドの種類と選び方
ブレーキパッドには大きく分けて、純正品、ストリート用、スポーツ走行用などがあります。
・初心者のうちは幅広い温度域で安定した制動力を発揮する純正品(OEM)か、それに準ずるオーガニックタイプの社外品が日常の街乗りやツーリングに最適で扱いやすいのでおすすめです。予算に余裕があれば、制動力と耐久性に優れたシンタードパッドを検討するのも良いですが、ローター攻撃性が高まる点に注意が必要です。
【最重要リスク】ブレーキフルードの漏れを防ぐ方法
ピストンを押し戻す際、押し出された分のブレーキフルードがマスターシリンダーのリザーバータンクに戻ります。
・危険性:リザーバータンクのフルード量が多すぎると、フルードが溢れて車体の塗装を溶かしてり、周囲のパーツを劣化させたりする危険性があります。
・予防策:ピストンを押し戻す前に必ずリザーバータンクのキャップを開け、フルードの量を半分程度まで抜き取っておくことが必須です。また、作業中はリザーバータンクの周囲をウエスで覆い、フルードの滴下を防いでください。
*ブレーキフルードは塗装を溶かす性質と吸湿性に優れる面があります。
準備:交換に必要な工具と代用品
作業前の注意点
ディスクブレーキパッドの交換作業を行う際は、以下の点に注意してください。
・平坦な場所で行う:バイクが安定した状態で作業ができるよう、平坦な場所を選びましょう。
・バイクを固定する:ジャッキやセンタースタンドがあれば最適ですが、難しい場合はギアを1速に入れておくことで、バイクが動くのを防ぐことができます。ただし、不安定な状態での作業は危険ですので、十分に注意してください。
必要な工具とケミカル
・メガネレンチ または ラチェット:キャリパー固定ボルトの脱着
・六角レンチ:パッドピンやパッドスプリングの脱着
・マイナスドライバー:パッドピンのストッパー(割ピン)の脱着、古いパッドの取り外し
・ブレーキパッドグリス:新品のパッドの動きを滑らかにし、異音を防ぎます。
・ブレーキクリーナー:キャリパー、パッドピンなどの洗浄
・パーツクリーナー:ピストン清掃時の汚れ落とし
・ヤスリ:新品パッドの角を面取りするために使用します。
必須ではないが、あると安全な工具
・トルクレンチ:ボルトの締め付けトルク管理
・S字フック:キャリパーを吊り下げる
・ピストンツール:ピストンをまっすぐ押し戻す
・ウエス :汚れを拭き取る
【写真付き解説】ディスクブレーキパッド交換の完全手順
手順1:ブレーキキャリパーを取り外す前の準備
トルクレンチがない場合はキャリパーを固定しているボルトの位置をマーキングしておくと、組み付け時のトルク調整の目安になります。
手順2:キャリパー本体をフロントフォークから外す

まず、フロントフォークからキャリパー本体を取り外します。
*ワンポイント:写真の引き出してあるキャリパー本体の2本のボルトを緩めます。この時、写真のように引き出さなくても少し緩めておく程度で大丈夫です。
次に、フロントフォークにキャリパーを固定しているボルトを緩めて抜きます。
先にキャリパー本体をフロントフォークから外してしまうと、キャリパー本体のボルトを緩めるのが大変な場合がありますので、固定されているうちに緩めておくのが容易です。
フロントフォークからキャリパーを取り外そうとしても、パッドがディスクローターに密着しているため、なかなか外れないこともあります。その場合はキャリパー本体をゆっくりと、しかし確実にローター側へ少し押し込むと、ピストンが押し戻されてキャリパーを引き抜くことができます。
パッド交換のみを行う場合は、ブレーキホースを痛めないように、キャリパーを台の上などに置いておくと良いでしょう。

次に、古いブレーキパッドとガイド部分を取り外します。パッドは、キャリパーの種類によってピンやスプリングなどで固定されています。ローターからキャリパーを取り外したら、パッドがどのように固定されているかをスマホのカメラなどで写真を撮っておくと、組み立てる際に迷うことがありません。
手順3:キャリパーの清掃とピストン戻し
1. ピストン周りの徹底清掃:ピストンの露出部分の汚れをパーツクリーナーで丁寧に落としましょう。汚れたままピストンを戻すと、シールを傷つけてフルード漏れの原因になります。
しかし、ピストンの錆の有無は必ず確認してください。もし錆があっても軽度であれば金属磨きで落とせば問題ありませんが、もし錆がひどく、金属磨きを使っても指で触ると錆の部分が引っかかるようなら新しいピストンへの交換が必要になる場合もあります。
2. ピストンを戻す:C型クランプやピストンツールを使い、フルードが溢れないかリザーバータンクを確認しながら、ゆっくりと押し戻します。この際、ピストンがまっすぐ戻っているかを確認してください。
*専用工具がない時のピストンの押し戻し方法

片方のピストンを押すと、もう片方のピストンが飛び出してくるので、両方のピストンを両手でゆっくり強く押し戻してください。
それほど大きな力は必要ありませんが、もし不安な場合は古いパッド (赤い方が背面で白い方がライニング面です)を入れて、ドライバー等 (青い線で示されてます)で矢印のように軽くこじってやればピストンを押し戻すことができます。
ローターを挟むことができれば良いので、完全に押し戻す必要はありません。
手順4:新品パッドへの一手間(面取り・グリスアップ)
1. 面取り(角削り)新品パッドの端は角張っています。ヤスリで軽く角を削る(面取り)ことで、ブレーキ時のキーキー音(鳴き)の発生を効果的に防げます。
角を落とす量や角度は個人差がありますが、私はいつも写真に示す程度に留めています。

2. グリスアップ:パッドの裏側(ピストンと接触する面とキャリパー本体に接触する部分)や、パッドピンにはブレーキパッドグリス(耐熱性)を薄く塗布します。これにより、異音の発生防止と部品の摩耗を防げます。

手順5:新品パッドとキャリパーの組み付け
新しいパッドをキャリパーに元の状態に戻してセットします。分解する際に撮影した写真などを参考に、間違いないように確実に取り付けてください。
パッドのセットも完了したら、キャリパーをフロントフォークに取り付けますが、取り外しの逆の手順で行います。
まず、キャリパー側の2本のボルトのネジ山のない部分にグリスを塗布してから、手で回せる範囲で締め付けます。その後、フロントフォークにキャリパ一を固定しているボルトを締め付け、最後にキャリパー側のボルトを締め付けます。
最重要確認:キャリパーを車体に取り付けたら、パッドピンなどのボルトを仮締めではなく必ずトルクレンチで規定トルクで締め付けてください。
*組み付けのコツ:フロントフォークにキャリパーを組み付ける際、キャリパーをタイヤの回転方向に押さえながらボルトを閉めるとキャリパーが逃げないため、ボルト緩みの発生を防げます。
手順6:最終確認とブレーキの復帰

1. ブレーキの復帰:交換作業が終わったら、エンジン始動前にブレーキレバー(またはペダル)に手応えを感じるまで、何度も握って離す動作を繰り返します。写真のようにローターとパッドがしっかりと接触したら、実際にバイクを押し引きしてブレーキ制動を確認してください。これを怠ると、一発目のブレーキが効かず、大事故につながるため絶対に忘れないでください。
2. 最終目視:ブレーキフルードの漏れがないか、全てのボルトが確実に締まっているかを再確認します。
交換後の慣らし運転(アタリ付け)の方法
新品のパッドは、ローターと完全に密着していません。
性能を完全に引き出すため、約200km程度の慣らし運転(アタリ付)が必要です。
・慣らし方:最初のうちはやさしく、数回に分けてブレーキをかけ、熱を持ちすぎないようにしてください。急ブレーキやハードなブレーキングは避けましょう。
【さらに深掘り】ブレーキパッドの種類と特徴
パッドの種類と選び方でも触れましたが、その種類と特徴をさらに詳しく解説します。
バイク用のディスクブレーキパッドは、大きく分けて以下の2種類が主流です。初心者のうちは、ご自身のバイクの用途に合ったものを選ぶことが重要です。
オーガニックパッド(レジンパッド/セミメタルパッド)
特徴
- 素材:主にアラミド繊維やガラス繊維、カーボンなどの非金属素材を樹脂で固めたもの。
- 制動力:穏やかで、握り込むほど効くリニアな特性。聞き始めがマイルドなので、初心者でも扱いやすいです。
- 価格:比較的安価なものが多く、コストパフォーマンスに優れます。
- 耐久性/磨耗:耐久性はシンタードに劣ります。熱に弱い傾向があり、ハードなブレーキングが続くとフェード(効きが悪くなる現象)を起こしやすいです。
- ローター攻撃性:低い。ブレーキディスクローターを削りにくいため、ローターの寿命を伸ばしたい場合に適しています。
- 用途:街乗り、通勤通学、穏やかなツーリングなど、日常的な使用に最適です。
シンタードパッド(焼結金属パッド/メタルパッド)
特徴
- 素材:鋼や鉄などの金属粉末を高温・高圧で焼き固めた(焼結させた)もの。
- 制動力:初期制動(握り始めの効き)が強く、安定した制動力を発揮します。高温時や雨天時でも性能が落ちにくいのが特徴です。
- 価格:オーガニックに比べて高価な傾向があります。
- 耐久性/磨耗:耐久性が高い。熱に強く、過酷な状況下でも安定した性能を維持できます。
- ローター攻撃性:高い。金属成分が多いためローター(ディスク板)を削りやすく、ローターの寿命はオーガニックより短くなる傾向があります。
- 用途:スポーツ走行、レース、高速道路での長距離走行、大型バイクなど、高い制動力が求められるシーンに最適です。
まとめ:次のステップへ挑戦しませんか?
これで、あなたはバイクDIYの大きな一歩を踏み出しました。
今回の交換で満足した方はもちろん、もっと深く愛車を知りたいと思った方のために、次のレベルのロードマップを用意しています。
安全確認をしっかりと行い、安全で楽しいバイクライフを送りましょう。



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