バイクに乗っていると、走行距離が増えるにつれてエンジンから「カチカチカチカチ」という音が聞こえてくることはありませんか?この音は、バルブクリアランス(タペット)が適正な範囲からズレてきているサインかもしれません。
今回は、グラストラッカービッグボーイ(NJ4BA)を例に、自分でできるバルブクリアランス調整の方法を解説します。
調整を行うことで、エンジンの性能を維持し、より快適なバイクライフを送ることができますよ!
バルブクリアランスとは?なぜ調整が必要?
まず、バルブクリアランスとはエンジンのバルブとその駆動機構(ロッカーアームなど)の隙間のことです。
エンジン内部では、吸気と排気を行うバルブがエンジンの温度変化や負荷によって膨張・収縮を繰り返しています。この隙間が適切でないと、バルブの開閉タイミングが狂い、エンジン本来の性能を発揮できなくなってしまうのです。
バルブクリアランス調整の必要性
バルブクリアランス調整は、単に異音を解消させるだけでなく、エンジンの健康状態を保つために非常に重要な作業です。
具体的には、以下の4つのメリットがあります。
1. 適切なバルブ作動の確保
クリアランスが適切であれば、バルブは設計通りに正確に開閉します。これにより、エンジンの吸気・排気効率が向上し、スムーズな回転とパワーを発揮します。
もしクリアランスが広すぎたり狭すぎたりすると、バルブが完全に閉じなかったり、十分に開かなかったりして、エンジン性能が低下してしまいます。
2. エンジン寿命の延長
クリアランスが狭すぎると、バルブとバルブシートが常に接触し、摩耗が早まります。最悪の場合、バルブが焼き付いてしまうこともあります。故障の原因となることがあります。一方、広すぎると、バルブが開閉する際に大きな衝撃が生じ、バルブや周辺部品を傷つける原因となります。適切なクリアランスを維持することで、これらの部品の寿命を伸ばすことができます。
3. 燃費の向上
バルブが正しく作動することで、エンジン内の燃焼効率が向上します。その結果、ガソリンを無駄なく燃焼させることができ、燃費の改善につながります。
4. 排出ガスの低減
燃焼効率が最適化されると、未燃焼ガスの排出量が減少し、環境負荷を低減できます。
特に、高回転域を多用する方や、頻繁に高負荷な運転をする方は、バルブクリアランスがずれやすい傾向にあります。
定期的な点検と調整をすることで、エンジンの最高のパフォーマンスを維持し、長く愛車に乗り続けることができるでしょう。
調整に必要なもの
今回の作業では、グラストラッカービッグボーイ(NJ4BA)で以下の工具を使用しました。
車種によって必要な工具が異なる場合がありますので、ご自身のバイクのサービスマニュアルを確認してください。
- シックネスゲージ(0.01mm単位で測定できるもの)
- 10mmメガネレンチ
- 17mmメガネレンチ
- 22mmソケットレンチ
- タペットアジャストレンチ(専用工具)
- 幅広マイナスドライバー
パーツクリーナー(清掃用)とウエス(拭き取り用)も必要です。
作業前の準備
バルブクリアランス調整は、エンジンが完全に冷えている状態で行うのが基本です
エンジンが温まっていると、金属が膨張して正確なクリアランスを測定できません。
作業前にエンジンが十分に冷えていることを確認してください。
また、作業中にエンジン内部にゴミや砂などが混入するのを防ぐため、事前にエンジン周りの埃や砂などを落としておくことと、風の強い日の作業は避けるのが賢明です。
バルブクリアランス調整の手順(グラストラッカービッグボーイNJ4BAの場合)
1:ジェネレーターローターカバーの取り外し

まず、車体のシフトペダル側の「ジェネレーターローターカバー」を取り外します。
このカバーには、ローターの位置を確認するためのボルトと、オーターを回転させるためのキャップがあります。
・位置確認用ボルト:17mmメガネレンチを使用して緩めて取り外しますで開。
・ローター回転用キャップ:幅広マイナスドライバーを使い、キャップの溝にしっかりと差し込んで回します。

キャップにはR(アール)がついているため、ドライバーの先端をキャップの形状に合わせて少し削るとより回しやすくなります。
2:排気側・吸気側のタペットカバーの取り外し

エンジンの前後にあるタペットカバーを17mmのメガネレンチで取り外します。
排気側のタペットカバーはエキゾーストパイプの差し込み口の上、吸気側はキャブレターを取り付けるインマニの上にあります。

カバーを取り外すと、内部にアジャスタースクリューが見えます。
3:圧縮上死点への合わせ込み
バルブクリアランスを調整するには、エンジンのピストンが最も上がった位置にある「圧縮上死点」に合わせる必要があります。
・先ほどマイナスドライバーで開けたローター回転用キャップの場所の奥に見えるナット(22mm)を、22mmソケットを使って反時計回りにゆっくりと回します。時計回りでは正しい圧縮上死点になりませんので注意してください。

・位置確認用の窓からローターの刻印を確認します。回していくと「T」の刻印が現れ、そのすぐ後ろに線が入っています。この線がローターカバーにある矢印と一直線になるように合わせます。
*回す時の注意点として、回すのにほんの少し力を入れる位置がありますが、その後すごく軽く回ってしまう位置があるので焦らずゆっくり回していきましょう。線が通り過ぎてしまったら反時計回りで合わせ直します。
4:上死点の種類と確認方法
この刻印が窓に現れるのは、「圧縮上死点」の時と「排気上死点」の2回あります。
どちらの上死点であるかを確認するためにアジャストスクリューを指で軽く摘んで上下に動かしてみてください。
もしアジャストスクリューが全く動かない場合は「排気上死点」になっている可能性が高いです。その場合は、ローターをもう一回転させて同じように刻印に合わせ直しましょう。今度はアジャストスクリューがわずかに動くはずです。これが「圧縮上死点」です。
5:現在のバルブクリアランスの確認

圧縮上死点に合わせたら、シックネスゲージを使用して現在のバルブクリアランスを測定します。
バルブクリアランスは車種ごとに設定されていてグラストラッカービッグボーイ(NJ4BA)は
・吸気側 0.03~0.08mm
・排気側 0.08~0.13mm
が許容範囲になっていますが測定値はどうでしょうか?。
測定した値がこの範囲内にあれば、特に調整の必要はありません。ただし、範囲内であっても、より精密な調整をしたい場合は次の手順に進みましょう。
6:バルブクリアランスの調整

・測定値が基準値から外れていた場合は、タペットアジャストレンチでアジャストスクリュー固定したまま、10mmのメガネレンチでロックナットを緩めます。
・アジャストレンチを回してクリアランスを調整します。アジャストレンチを締めれば狭く、緩めれば広くなるので、アジャストレンチを回したらロックナットで軽く固定し、シックネスゲージで確認します。この作業を任意のクリアランスになるまで繰り返します。
・目標のクリアランスになったら、アジャストレンチでスクリューを固定したまま、ロックナットを締め付けます。この時、スクリューが一緒に回転しないように、アジャストレンチに反対の力を加えて固定するとクリアランスがズレにくいです。
・ナットを締め付けたら、再度シックネスゲージでクリアランスが基準値内になっているか確認します。必要であれば、この調整作業を繰り返します。
調整のコツ: アジャストレンチの頭に油性ペンなどで印を付けておくと、どれだけ回したかが分かりやすく、スムーズに作業を進められます。0.01mm単位での微調整となるため、根気よく作業を行いましょう。
7:最終確認
調整が終わったら、ローターを2回転させて再び刻印を同じ位置に合わせ、もう一度シックネスゲージでバルブクリアランスを測定します。この時も基準値内に収まっていれば調整は完了です。
8:シックネスゲージの保管
シックネスゲージは精密工具ですので、使用後はすぐにオイルを薄く塗って錆びないように保管しましょう。
まとめ
今回は、グラストラッカービッグボーイ(NJ4BA)のバルブクリアランス調整について解説しました。
少し手間はかかりますが、エンジンの調子を維持するために非常に重要なメンテナンスです。自分で調整することで、愛車への理解も深まりますし、何よりエンジンの調子が良くなった時の喜びは格別です。
今回の記事を参考に、ぜひバルブクリアランス調整に挑戦してみてください。もし不安な場合は、無理せず専門の業者に依頼することも検討しましょう。
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