この記事を書いた人:tkc
普段から定期的なメンテナンスと注油が欠かせないドライブチェーンですが、多くの人がフロントスプロケット周辺の洗浄という重要なメンテナンスは忘れがちです。私もその一人でした。
滲む程度のわずかなオイル漏れでも、発見が遅れると最悪の場合、エンジン内の潤滑に深刻な影響を及ぼす可能性があります。定期的な目視と、発見後の早急な対処を心がけましょう。
この記事では、ヤマハ ドラッグスター250を例に、劣化したオイルシールからのオイル漏れを自分で修理する方法を、写真と合わせて解説します。
交換部品の準備
今回交換するのは以下の二点です。作業に入る前に、必ず純正部品を手配しておきましょう。
部品番号 93102-35319 (オイルシール) と 90215-20283 (ロックワッシャー) の二つを交換します。
ヒント:ヤマハは公式で「YAMAHA Parts Catalogue」というアプリを提供しています。ご自身の車両のパーツ品番を確認する際に非常に便利です。
使用した工具とケミカル

必須工具
- 10mmスパナ(レンチ):シフトアーム固定ボルトの取り外し
- 5mmヘキサゴンレンチ(六角):スプロケットカバー固定ボルトの取り外し
- 26mmソケットレンチ:スプロケット固定ナットの緩め作業
- ウォーターポンププライヤー:カラーの取り外しやロックワッシャーの曲げ戻しに使用
- ハンマー:新品オイルシールの打ち込み作業
- 塩ビ管 継手キャップ30(外径45mm 内径38mm)新品オイルシールを傷つけずに均等に打ち込むためのSST(特殊工具)代用
- ラジオペンチ:ロックワッシャーの立ち上げ作業
- ジャッキ:車体の安定化と傾け(後述の裏技)に使用
あると便利な工具
- シールピック ツール(または先端を曲げたドライバー):古いオイルシールを傷つけずに外す専用ツール
- トルクレンチ:スプロケット固定ナットを規定トルクで締めるために必須(整備の中級者を目指すなら購入を強く推奨)
清掃道具とケミカル
- ブラシ(歯ブラシで可):頑固な汚れの掻き出し
- パーツクリーナー:最終仕上げの脱脂と洗浄
- 洗剤:高粘度の油汚れを根気よく落とすための必需品
- ウエス:拭き取りやカラーの傷つき防止に使用
スプロケットカバーの取り外し
まずはジャッキアップして車体を安定させましょう。
ドラッグスター250には、スプロケットカバーのさらに外側にドレスアップパーツが取り付けられています。
ボルトで4箇所と、シート下のサイドカバーで隠れた位置にあるプラスチックリベット(プッシュリベット)を外します。
プラスチックリベットは中心をプラスドライバーなどの棒で押すとロックが解除され、簡単に外せます。

ドレスアップパーツを取り外すとこのような状態になります。
シフトシャフトの向きが純正とは違いますが、アームを固定しているボルトも、10mmのスパナを使って外してください。

注意:スパナを使用する場合は、回す際にボルトをなめないよう、ねじれによる無理な力をかけないよう注意が必要です。

アームを取り外したら、5mmのヘキサゴンレンチを使って3箇所ある固定ボルトを外します。
スプロケットカバーは少し固い場合がありますが、手前方向に真っ直ぐ引き抜きましょう。
スプロケット周辺の洗浄と目視確認

カバーを外すと、飛び散ったオイルに巻き上げた砂などが付着しているのが見えます。
この付着した砂利が研磨剤のようになり、オイルシールを摩耗させる原因にもなります。定期的な目視確認が非常に有効であることを再認識できますね。

スプロケットの固定ナットに合いマークを白色の油性ペンなどで書いておくと、再取り付け時の目安になります。
ナットを外す前に、後ろにあるロックワッシャーをラジオペンチなどで立ち上げてください。

ナットの周辺はフレームやエンジン本体で少し狭いのですが、リヤブレーキペダルを踏みながら26mmのソケットレンチを使用して緩めます。
ロックワッシャーは再利用不可です。

ナットとワッシャーを外してチェーンとスプロケットを手前に引っ張れば外れますが、再取り付け時に苦労するため、先にリアタイヤのアクスルシャフトとアジャスターを緩めてから、スプロケットを外しましょう。
リヤタイヤの緩め方、チェーンの張り調整は過去のスプロケット交換記事を参照してください。
ドライブアクスル周辺の入念な洗浄

ジワジワと漏れて砂利を纏ったオイルは高粘度でなかなか取れません。
パーツクリーナを直接吹きかけてもサッと取れるわけではないので、まずは洗剤とブラシで根気よく洗います。
仕上げにパーツクリーナーを吹き付け、きれいに脱脂するのがおすすめです。

絶対NG!:漏れが発生しているドライブアクスルのオイルシールに向かって、パーツクリーナーを直接噴射したり、高圧洗浄をかけたりするのは絶対にやめましょう。内部に異物が侵入する原因になります。
古いオイルシールとカラーの取り外し

工具を引っ掛けている、このシールを交換するためには、まずカラーを取り外す必要があります。

カラーを取り外すには、ウォーターポンププライヤーで挟んで引き抜きます。
カラーに深い傷がつくと、またオイル漏れの原因になる可能性があるため、ウエスなどを間に入れて引き抜きましょう。(傷つき防止のために先端にプラスチックがついたウォーターポンププライヤーもあります)

プライヤー自体が滑らないように、強めに挟んで引っ張るとスルッと抜けます。
カラー取り外し時の裏技
このカラーを外すと、クランクケースからエンジンオイルが出てきてしまうことがあります。
これを防ぐために、ジャッキの高さ調整をしましょう。
丸めた段ボールなどをスプロケット側のフレームとジャッキの間に挟み込み、10~15mm程度、スプロケット側を高くします。これによりオイルが出でくるのを防ぐことができます。

オイルシールの取り外しは、シール周りを傷つけないよう専用のシールピックツールを使います。
オイルシールの奥に大きなベアリングを確認できます。
中にゴミなどが入らないようにするためにも、最初の洗浄はしっかりと行ってください。
新品オイルシールの打ち込み
古いオイルシールを取り外したら、新品のオイルシールを打ち込みましょう。
オイルシールは中にスプリングが見える面が内側(エンジン側)になります。

新品のオイルシールを打ち込む際、滑りを良くするためにオイルシール全体にエンジンオイルを薄く塗布してください。
オイルシールを定位置から落ちない程度に指で軽く押し入れます。斜めに入るのを避けるため、強く押し入れる必要はありません。
オイルシールがセットできたら塩ビキャップを当てがい、ハンマーで少しずつ真っ直ぐに叩き入れます。
軽く叩いても入っていくので簡単にできます。
最重要ポイント:オイルシールは斜めに入ってしまうことが一番の失敗原因です。「軽く叩いて、真っ直ぐに挿入されているのを確認して、また叩く」を繰り返すのが良いでしょう。
オイルシールの外側と挿入口の面が同じになれば打ち込み完了です。

打ち込みが終わりました。
カラーの再取り付けとスプロケットの組み付け

カラーも戻す前にエンジンオイルを塗布して滑りを良くします。
カラーを差し込んだ時の注意点は、カラーに接しているオイルシールの端(リップ)が外側(手前)に出ていることを確認することです。

このリップが内側に入っていないか確認し、カラーを少し引き出したりしながら、リップが一周外側に来るようにしてください。

カラーがうまく入ったらスプロケットを戻し、新品のロックワッシャー、固定ナットの順で入れます。
固定ナットを軽く締めた状態で、緩めたリヤタイヤの位置とチェーンの張りを調整します。
規定トルクで締めよう!
その後、リヤブレーキペダルを踏みながら、ナットに描いた合いマークに合わせるか、規定トルクである60N・m(ニュートンメートル)で締め込んでください。

ロックワッシャーはウォーターポンププライヤーなどで挟んで曲げます。

これでナットの緩みを防止できます。
最終確認と走行テスト(必須)

スプロケットカバーを取り付ける前にジャッキをさらに上げて、リヤタイヤを手で回し、スプロケット周辺から異音などないか確認しましょう。
問題なければスプロケットカバーとシフトアーム、ドレスアップパーツを元に戻して完了です。
オイル漏れの発見方法と種類
オイル漏れは、すぐに症状が出るわけではないため、発生直後に発見することが難しいトラブルです

今回のオイル漏れに気付いたのは、スプロケットカバーの上が写真のように濡れたような状態だったからです。
同じような状態の場所を見つけた場合はオイル漏れの可能性が高いので点検、整備を実施しましょう。
ドライブアクスルからのオイル漏れの種類と注意点
ドライブアクスルからのオイル漏れには、主に2種類と3つの原因が考えられます。。
オイルシール周りからのオイル漏れ
原因:オイルシールの劣化や摩耗。今回対処した、オイルがジワジワ漏れてく一般的な症状です。
カラーとドライブアクスルの間からのオイル漏れ
原因1:カラーとその奥にあるベアリングの間にゴミが挟まっていたり、どちらかに深い傷がある。
原因2:スプロケット固定ナットの緩みが原因でカラーがベアリングと密着していない。
特に、ナットの緩み(原因2) は、整備後にいつ起きるか分からない怖いトラブルです。
スプロケットの交換時に固定ナットを規定トルクで締めること、そしてカラー取り外し時にカラーとベアリングに傷を付けないように注意することが、再発防止の鍵となります。
まとめと次のアクション
今回はドライブアクスルからのオイル漏れ修理を解説しました。整備初心者の方でも、この記事の手順と工具があれば、安全に作業を完了できたはずです。
今回の整備でご紹介した工具は、今後のバイク整備でも必ず役に立ちます。まだお持ちでない方は、ぜひ下記のリンクからチェックして、整備環境を充実させてください。
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オイルシール交換は、バイクを安全に乗るための重要なメンテナンスです。これを機に、ご自身のバイクへの愛着をさらに深めていきましょう!



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