バイクの駆動系メンテナンスにおいて、チェーン交換は走行性能や安全性を維持するために極めて重要な作業です。しかし、初心者にとっては「難しそう」「失敗したら危険ではないか」とハードルが高く感じられることも少なくありません。
本記事では、初心者の方でも迷わず安全に作業を進められるよう、手順と注意点を分かりやすく解説します。
なお、駆動系のメンテナンスにおいて非常に重要な原則があります。それは「チェーンとスプロケットは必ずセットで交換する」ということです。チェーンだけ、あるいはスプロケットだけを新品に交換しても、磨耗した古いパーツに引っ張られ、通常よりも大幅に早く寿命を迎えてしまいます。
本記事は3部作の第1弾として「チェーン交換」に焦点を当てますが、全体のパフォーマンスを最大限に発揮するためにも、続く第2弾スプロケット編、第3弾ハブダンパー編と合わせて一連の作業として捉えていただくことを強く推奨いたします。
各記事へはこちらから、『前後スプロケット交換』『ハブダンパーの交換』
基礎知識:シールチェーンとノンシールチェーンの違い

チェーン交換を始める前に、まずはチェーンの種類とその特徴を理解しておきましょう。チェーンには大きく分けて「シールチェーン」と「ノンシールチェーン」の2種類が存在します。それぞれのメリット・デメリットは以下の通りです。
【シールチェーン】
・メリット:ピンとブッシュの間にグリスが封入されており、摩耗を劇的に抑えるため寿命が非常に長いです。メンテナンスの頻度も少なくて済みます。
・デメリット:構造が複雑なため、ノンシールチェーンに比べて価格が高価になります。また、わずかに重量があり、フリクション(回転抵抗)が生じます。
【ノンシールチェーン】
・メリット:構造がシンプルなため価格が安価で、軽量です。フリクションが少ないため、小排気量車やレース車両に向いています。
・デメリット:グリスが封入されていないため、こまめに注油を行わなければすぐに伸びてしまい、寿命が短いという特徴があります。
今回は、高い耐久性と信頼性を誇る「D.I.D(大同工業)製のシールチェーン」を例に解説を進めます。日常的な街乗りやツーリング用途においては、シールチェーンを選択するのが最も確実で賢明な選択と言えます。
*愛車のチェーンのリンク数(コマ数)を必ず確認してから購入しましょう。
作業に必要な工具とパーツ


安全かつ正確に作業を行うため、以下のものをあらかじめ準備してください。
- 新しいD.I.D製シールチェーン(車種に適合するリンク数のもの)
- D.I.D純正チェーンカット&カシメツール「カシ丸君(KM500R)」*注1
- 19mmレンチおよび27mmレンチ(カシ丸君の操作用)
- ノギス
- チェーンクリーナーおよびパーツクリーナー
- ウエス(布切れ)
- 適切なサイズのソケットレンチ、スパナ(チェーンカバー等の取り外し用)
- メンテナンススタンド(後輪を浮かせるために必須です)
*注1:D.I.Dチェーンには40系と50系があります。写真のチェーン、428VXは40系です。
カシ丸君は50系(500代)が標準になるため、40系チェーンに使用するためには別途40系のオプションが必要になります。
あると良い物
- ハンドグラインダー
- パーツトレイ(外したボルト類の紛失防止用)
- 作業用手袋および保護メガネ
※注意:工具は必ず精度の高いものを使用してください。精度の低い工具を使用すると、ボルトやツールの破損に繋がり、怪我の原因となります。
チェーン交換前の確認事項
チェーンを交換するにあたり、今までにチェーンの張り調整をされましたか?
古くなったチェーンと新品のチェーンでは長さが変わっているため、リアタイヤのアクスルシャフトとアジャスターを緩め、少しで良いのでタイヤを前方に押しておきましょう。
カシ丸君を使用したチェーン交換の具体的手順
それでは、実際の交換作業に入ります。作業は「カット(切断)」「圧入(プレートの組み付け)」「カシメ(ピンの固定)」の3つのステップに分かれます。
ステップ1:古いチェーンのカット(ピン抜き作業)
バイクをメンテナンススタンドで安全にリフトアップし、ギアをニュートラルに入れます。後輪が手でスムーズに回ることを確認してください。
作業の妨げになるチェーンカバーやスプロケットカバーを取り外します。

車種によってはスプロケットカバーを外すためにシフトも外す必要が出てきます。

カバーの中が飛び散ったルブ(チェーンの潤滑剤)で汚れているとオイル漏れなどの発見が遅れるのでついでに綺麗にしてしまいましょう。

交換する古いチェーンの「ピン」を1箇所選び、その周りの汚れをパーツクリーナーで清掃します。
写真は中央の凹みのあるピンが以前交換した時のカシメ部分ですが、1度も交換されていない場合は凹みのないピンのままなので切断位置はどこでも同じです。

カシ丸君を使えばそのままピンを押し出すことが出来ますが、ハンドグラインダーがあるなら頭だけ擦り落としたほうがカシ丸君のピンに負担をかけずに済むため、私は擦り落としてしまいます。
ハンドグラインダー使用時は目にゴミが入らないように保護メガネの装着をお勧めします。
また、火花が出るのでチェーンとタイヤの間に段ボールなどを挟んで火花の飛ぶ方向に注意してください。

擦り落とす頭は1箇所です。

カシ丸君を取り扱い説明書の通り、「カット」のモードにセッティングします。本体にカッティングピンを装着し、カシメボルトを軽く締め込んでおきます。
古いチェーンのピン頭部にカシ丸君のピンを正確に当てがい、本体をチェーンにセットします。
27mmのレンチでカシ丸君の本体(ホルダー)を固定し、19mmのレンチでカシメボルトを時計回りに締め込んでいきます。
※注釈(重要注意点):
カシ丸君をセットする際、カッティングピンとチェーンのピンが完全に「真っ直ぐ」一直線に当たっているかを目視で必ず確認してください。位置がわずかでもズレた状態でレンチを無理に締め込むと、チェーンのピンが抜けないばかりか、カシ丸君の精密なカッティングピンがポキリと折れてしまいます。手応えが異常に硬いと感じたら、すぐに作業を止め、位置を再確認してください。

以前ポキリと折れたカッティングピン。

ボルトを締め込んでいくと、チェーンのピンが裏側へ押し抜かれます。完全に抜けたらカシ丸君を取り外します。
抜けた箇所から古いチェーンを切り離します。
ステップ2:新しいチェーンの接続と圧入

新しいチェーンを通す準備をします。古いチェーンの端と、新しいチェーンの端を付属の新品ジョイントか、針金などで仮に繋ぎます。
ジョイントが落ちないように後輪をゆっくりと回転させ、古いチェーンを引き抜くと同時に、新しいチェーンをフロントスプロケット、リアスプロケットへと正しく引き込んでいきます。
チェーンが1周したら、仮繋ぎのジョイントもしくは針金を外し、新しいチェーンの両端をリアスプロケットの上で合わせます。

付属のシール(Oリング等)に、添付されている専用グリスをたっぷりと塗布します。
ジョイントピン(接続用パーツ)にシールを2個装着し、チェーンの裏側から穴に通します。
表側にもグリスを塗布したシールを2個装着し、外プレート(継手プレート)を手で押し込み仮ハメします。
外プレート(継手プレート)が外れないようにゆっくりと継手の位置を作業のしやすい位置までタイヤを回します。

カシ丸君を「プレート圧入」のモードに変形させます(説明書に従い、圧入用のホルダーとプレートをセットします)。

仮ハメしたプレートにカシ丸君をセットし、27mmレンチで本体を固定、19mmレンチでボルトを締め込んでいきます。
※注釈(重要注意点):
プレートの圧入作業では、ボルトを締め込みすぎないように細心の注意を払ってください。早く固定しようと勢いよく締めすぎると、外プレートが奥に入り込みすぎ、間にあるシールを過剰に潰してしまいます。シールが潰れると中のグリスが漏れ出すだけでなく、チェーンの継ぎ目部分が固着してスムーズに曲がらなくなり、走行中のブレや異音、最悪の場合はチェーン破断の原因になります。周囲の既存のリンク(コマ)と同じ幅(厚み)になっているか、ノギスで測定しながら、少しずつ慎重に圧入してください。
ステップ3:カシメ作業(最終固定)
カシ丸君を「カシメ」のモードにセッティングします。カシメピンを本体に装着します。
先ほど圧入したジョイントピンの先端(中空になっている部分)に、カシ丸君のカシメピンの先端が正確に中心に当たるようセットします。
同様に27mmレンチで本体を固定し、19mmレンチでボルトを締め込んでピンの頭を広げていきます。

カシメピン単体で見ると、カシメピンと外プレート(継手プレート)との間に隙間がないように締めます。
※注釈(重要注意点):
カシメ作業において、ピンの頭部が規定のサイズまで正しく広がっているかどうかは、目視の感覚だけで判断してはいけません。カシメが緩すぎると走行中にジョイントが外れてチェーンが脱落し、重大な事故に繋がります。逆に締めすぎてカシメ径が大きくなりすぎると、ピンに亀裂(クラック)が入り、強度が著しく低下します。必ずノギスを使用し、D.I.Dが指定する規定のカシメ寸法(例:50系チェーンであれば5.5mm〜5.6mmなど、メーカー指定値)に収まっているかを厳密に測定してください。

規定値まで綺麗にカシメられていること、そしてカシめたリンクが手でスムーズに折れ曲がる(固着していない)ことを確認できれば、チェーン本体の交換作業は完了です。
まとめと次回予告
チェーンの交換作業が終わったら、最後にチェーンの「弛み(遊び)」が車種ごとの規定値(一般的に20mm〜30mm程度)に収まっているかを確認し、必要に応じてアジャスターで調整を行います。最後に各部ボルトの締め忘れがないかダブルチェックを行い、テスト走行を行ってください。
カシ丸君を使用すれば、プロに頼まなくても非常に高精度で確実なカシメ作業が可能です。ただし、要所要所での目視確認やノギスによる測定といった「注釈」部分の手間を惜しまないことが、DIYにおける安全確保の絶対条件となります。
無事にチェーンが新品になったことで、愛車の駆動は見違えるほど滑らかになるはずです。しかし、冒頭でお伝えした通り、これで終わりではありません。新品のチェーンを長く持たせ、バイク本来の性能を引き出すためには、チェーンと噛み合う「スプロケット」の存在が不可欠です。
次回、3部作の第2弾となる「前後スプロケットの交換と注意点」では、チェーンと同時に交換すべき理由の深掘りと、スプロケット交換の具体的な実践手順を徹底的に解説します。愛車の寿命を延ばすためにも、ぜひ続けてご覧ください。
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